ONE VOICE

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流星の絆: Ep.9

肝心なところであるべき感情の葛藤が大量に欠落したエピソード。落胆の度合い的にちょっと辛いものがありました。

ストーリー展開そのものには中だるみもなく、一時間を存分に使ったハラハラドキドキの数々で、まさによく出来たサスペンスだったと思います。だけど出鼻でストレートパンチを食らってしまった私はなんだかちょっと萎れてしまい、残念なことに人間模様にはもはやあまり興味を持てなくなってしまった。功一という人間像が、私のなかで完全にピントを失ってしまい、もうどう感じて見ていたらいいのか、と途方にくれてしまったのです。しょうがないから、額面どおり、誰が犯人なのか、それをどうやって突き止めていくのか、という非常に浅瀬部分だけで物語の進展を追っていました。まあ、それだけで十分楽しめるのは、原作を読んでいないからこそだと思います。よかった。読まなくて(笑)。

先に言いたいことを言いますね。
ピルの屋上での、有明功一と柏原のシーン。

功一の言っていることの内容としては、これが例えば功一とおはぎさんとの会話とか、仮にどっかのどうでもいい刑事に詐欺で捕まって行われる供述とか言い訳とかだったら、おかしくないのかもしれません。だけど功一と柏原の会話として、せりふも、演技が表現する感情も、絶対的に納得がいかない。

「身寄りがなくて、誰も信用できなくて」と言う功一が、言っている側からそう簡単に柏原を信用して、すべてをありのままに話すという根拠がぜんぜん分からない。生きるために詐欺を働いたという、壮絶な内容の告白のわりに、その告白そのものは盲目的な信頼から行われているという矛盾。だって、この話が始まる前まで、柏原と功一はなんの連絡も取ってなかったわけでしょう? その上、アリアケ3!とはしゃいでいた本人が、心変わりの素振りもなかったのに突如「俺だけならともかく、弟や妹まで」と言い始めたら私たちは仰天してしまうし、「犯罪者」と万感をこめて口にしてみても、功一が後悔なんてしていないことを私たちは知っているので、なんでそんな変なところでウソをつくのかがよく分からない。そんなこと言ってまで自分をよく見せるくらいなら、そもそも詐欺のことを馬鹿正直に話す必要もないわけです。それこそ舌先三寸で、上手い具合に柏原を味方につけることくらい、功一なら出来るはずだ。なんてったって、最終的に柏原は刑事なわけだから、「被害者の息子なんだから・・・」という甘えた一言で見逃してくれるという保証なんてどこにもないわけです。もちろん私だって、話の展開からもこれからの進展にためにも、功一と柏原が何らかの共同戦線を張らなきゃいけないということは分かります。分かるけれども、必要性を遥かに超えた、現実味のない言葉のやり取りが非常に興ざめ。柏原を信用し切れていないけれども、計画のために止むを得ず、柏原を味方につけるための告白だというのなら、ここまで全てをさらけ出す必要はないわけだし、功一が、私が見逃した何らかの理由から、柏原を深く信頼しているのだというのなら、そこにはやはり、罪を犯した自分に対する後ろめたさから、告白にはそれ相応の怯えがあって然るべきだと思う。どちらにしても結局、功一の告白はうそっぽくて白々しいし、葛藤がなくて重圧感に欠ける。

なんだかんだいってこのシーンは、全体の中の数分なわけで、それに後半きちんと取り直してぐんぐん掘り下げていくあたりはしっかり面白くて、別にこれのせいでこのドラマがおじゃんになるとか、そういうことではないんです。ただ、この二人のシーンで、しかもこの終盤に来て、突然キャラクターの軸のぶれるような、筋の通らない応酬って言うのは、私の中で非常に致命的で。しかもそれが二宮さんだったのが、正直、単純にショックだった。ここで二宮さんがこのセリフに功一の何を感じて、どう演じようとしていたのかが、私には残念ながら何一つ分からなかったんですね。二宮さんは、自分のセリフはどんなものでも、感情的理屈で納得した上で演じるはずだ、そして納得したならそれの伝達には失敗したりしない、という私の思い込みがあったので、功一が何を思っているのかさっぱり分からん、という現象が起こるとは思ってなかったんです。実際二宮さん本人の頭や心のなかで何が起こっていたかはわかりませんが、かなりビックリしました。まぁ言ってしまえば、監督がこのシーンの功一に何を感じて、どう演じさせようとしていたのかも分からないし、クドカンがこの会話文に何を感じて何を表現しようとしていたのかも分からないんで、もはや二宮さんがどうとかこうとかいう問題ではないんです。でも、流星の絆という作品を全体として見たときのレベルが高いだけに、ここだけ完全にすっぽ抜けていて、「なんだ、いまのは。」とボーゼンとしたくなる。それくらい不可思議で謎なまでに、流星の絆っぽくない凹みが目立ったシーンでした。と私は思った。

さて。

それより前の、最初のしずなととがみのシーンです。最初のうちは、窓ガラスの向こうに兄2人がいるショットアングルが気に入らない。気が散る。と画面に毒づいていたのですが、要さんがやたらとやりたい放題だったので、私はおとなしくなりました(笑)。要さんって前から有名な方なんですか? なんか、めっちゃ上手いけど。

とがみさんはとても怒っているんです。汚い手を使って用意周到に自分を利用し、自分の父を罠に嵌めようとした彼女を嫌悪していると言ってもいい。まずは何より彼は怒っている。だけれども、愛した女性に裏切られた、いやむしろ愛した女性が誰なのか分からないという、悲しみと悔しさが、相応に滲み出ているあたりに万歳。「もんだいは、」の台詞回しとその前のつかの間の沈黙とか、特に好き。あのシーンの戸神の感情の浮き沈みは現実に生きている人間として説得力があったと思う。誠実なだけのつまらないキャラクターになる可能性でいっぱいだった行成ですが、ここまで来るととりあえず拍手をしたい。このエピソードの最初から最後まで、その幅の広さと奥行きの深さと言ったら万歳三唱レベルで、この際花火でもあげたい気分でした。要潤を盛大に祝う。「落ち着いて。落ち着いてーください、ご主人。」がいちばん好き。

以下、非常にどうでもいいけど気になったこと(笑)。

戸神@功一の部屋。「だけどそれ以上に」の「そ」と共につばが飛んでいって、私はちゃっかり笑ってしまいました。
おはぎさん@時効当日。「すっかり大人の女じゃないですか」のすと共につばが飛んでいって、私はうっかり笑ってしまいました。

「時間ないから早く乗って」「あ、ハイ。」彼女コメディーいいよ。コメディー攻めたらいいと思う。

「傘」というキーワードが出てきた後のカットで、ニノの目がものすごく茶っこくてかわいかった。

最近読ませて頂いたニノのインタで(CutかHかどっちか)、ニノは狙ってるんだということを知りました。彼は人の印象に残ったらいいと、思っているらしい。印象に残るだけの感情を毎話毎話発散させるのは、そうそう狙って出来ることじゃないと思うんだよね。だけど毎回やる。「最後まで話ちゃんと聞いてからだ」に、純粋な怒りと、ささやかな尻込みを見た私は、間違っているんだろうか? 功一は犯人を見つけて親離れしたいけど、両親のことは忘れたくないはずだ。目の前にいるこいつが捕まったら、PCの壁紙から朝一番に考えることから、功一のいままで知っていた日常の全てが変わるわけで、その変化を、彼は本当に分かっているのかな、とふと思った。やっと開放される喜びと同じ分量で、開放されて弟妹以外何も残らない自分という漠然さが、なんとなくあの口ごもったような口調に感じられた。

パチパチする