ONE VOICE

     * ONE LOVE + ONE LIFE + ONE VOICE *        笑っていれば、イイコトあるよ  

序章

Music: If No One Will Listen - Kelly Clarkson

何が起こったかと言うと、
会社の出した申請書は、Visaが下りやすいように便宜をはかったものであって、
しかしながら最近イベント業界でこの手の申請が多くなっていることに気付いていた大使館が、
根掘り葉掘り
彼らのやるべき仕事をしっかり行い、
問われるままに馬鹿正直に自分の日常業務を説明した私は、
「その仕事にこのVisaは許可できない」
と言われ、
あることにも気付かなかった、その扉は閉じた。

いつもの癖で電子辞書の入ったカバンを持って歩く町中。
自分が早くて来月には、
このつややかな調和の中に日常を見出すのだということが、
どうもよく分からない。

NYの立体的な乱雑さを思い出す。

大使館を離れてからずっと、
とりあえずしなくてはならない事が多すぎて
ずっとドキドキしていた。
ブレたりせずにただまっすぐに走り続ける自分と、
それを動かし続ける機械的な理性。

連絡すべき人に連絡し尽くしたら、
最後にMimiが残った。

白い画面に
何も考えずにただ、
I can't.
と書いてみれば、
均等な鼓動はあっさりと私の手を離して、
肋骨に八つ当たりを始めた。
どれだけ泣いても悔しすぎる。
私はNYにいたいのに

私は今までの人生で、
実は一度だって悔し泣きというものをしたことがなくて、
そういえば泣きたくなる程何かに固執するというのは、
ほんとうはちょっとした夢だった。

New York.

れんが色と近代で形成された
あのざらついた混沌を
私はいつの間にかこんなに好きで
こんなにも大好きで、
灰色ばかりの空が
どんなにか毎日が
すれ違うだけの人間によって鮮やかに色取られていくかを、
この先ずっとずっと夢に見るのだと思ったら
悔しくて、
とにもかくにも悔しくて、
いたネットカフェから2時間歩き続けて家に帰った。

あんなに泣いた2時間はなかった。

一日待って今日になっても
Mimiからメールの返事がまだ来ない。
落ち込むことは彼女にまかせたので、
それでいいのだ。
私は今座り込んだら、
もう二度と立ち上がれない。

心のどこかで、
これは神さまの鳴らしてくれた目覚まし時計なのだと
信じたい自分がいる。

嫌だ嫌だといいながら通い続けるOfficeに未練はなくて、
こんなDrastic Measureがなければケリを付けられなかった自分が
浮き彫りにされて恥ずかしいだけで、
本当は悲しくない。

悲しくない。

ただ

ただ、迎えられなくなった明日のNYの朝と、
出会えなくなった地下鉄のパフォーマーと、
もう聞くことのない鼓膜を叩くサイレンが、
今はどうしようもなく大きく、輝いて、太平洋の向こう側に沈んでいく。

私にはたくさんの当たり前があって、
それをきちんと大切にしてこなかった。

後悔はきっとこうやってするもので、
自分は可哀想だと一番星に向って叫ぶのも今だ。
だけどそんなくだらないことに時間をかけていられないから、
私は反省をして、
唇を噛んで、
とりあえずめぐってくる次の一秒を頑張るしかない。

がんばれ
ここで負けたら女が廃る。

おうえん。

*きこくまえにぱちぱちくれたみなさま、ほうちしてしまってごめんなさい*
*メールくれてるみなさん、どうもありがとう*