ONE VOICE

     * ONE LOVE + ONE LIFE + ONE VOICE *        笑っていれば、イイコトあるよ  

街角

白い息を吐きながら、
朝の灰色の街を歩く。
首をすくめてマフラーに顔を埋めてみる。
最近のNYは四六時中朝4時の寒さで
どこに顔を向けても痛い。

人が亡くなると
いつもCassieの形をした
空白を想ったりする。

私はCassieのお墓の場所を知らない。
それでも彼女はあの頃と等しく平等に
私にも同じように
満面の笑みを咲かせる。
爛漫。
そして不在。
誰にとっても不在。
帰還のない不在。

いつの間にか晴れ渡って青い空を見上げる。
朝4時の寒さの昼時。
まっすぐに伸びていく道。
どこまで歩いていったら
Cassieの不在する世界は周るのをやめてくれるのだろう?

去年、一度だけケイタイに電話を掛けてみたことがあった。
3度目の呼び出し音で電話を切る。
他の誰かの使っている彼女の番号。
もう繋がったりしない。
彼女を呼び出していた数の羅列。

Cassieの声が聞きたい。

Her voice, giggle, laugh.
Laughter.
I wanna hear her laugh.

Officeの鍵を閉める。
夜空に映える白い息。
ヒールの下で氷が割れる。
つむじまでひとつに通り抜ける感覚。
透き通った足元。
亀裂。
そこに落ちていったりしない自分。
不恰好なため息を、自分の喉元で壊しながら前へ進む。
どこまでも続く道。
信号は青。

横断歩道の只中
久しぶりに偶然再会した風な男女がはさむ距離は
とても曖昧で困惑している。
"You are not coming back?"
彼女は首を振る。"No."
少しひるんでから、彼が笑った。
"Well, have a beautiful life if I never see you again!"
"I will."
彼女はうなずく。そこに疑いなど何もないように。

I will have a beautiful life.

私はちょっと泣きたくなったから、ちょっと泣いて地下鉄に乗った。

I have a life here.
My life.

いつも通る公園に、
まだ飾られているクリスマスツリーがある。
どれだけしゃがんでも斜めで
どれだけ首を傾げても対称にはならない
いびつにかしいだクリスマスツリー。

朝は4時になって、
街は正しく寒くなる。
不在届けを握り締めたまま、
周り続ける世界。

A beautiful life.
Right now, right here.

So don't look away.

余所見をしない。パチパチする。