ONE VOICE

     * ONE LOVE + ONE LIFE + ONE VOICE *        笑っていれば、イイコトあるよ  

as this sunset turns to morning

Music: Moonlight - Yiruma

昨日はMさんのお誕生日で、
3ヶ月くらい前に、欲しいなーと言っていたご飯を炊けるお弁当箱を、
Nさんとふたりでプレゼントして、
横並びの席で3人で、あらしを歌いながら今日まで仕事をしていました。

遅番だった今日は、早く行こうと思っていたのだけれど布団の優しさに勝てず、
10時くらいにおきて、11時に家を出ました。

ろーそんに寄って、パスタサラダを買って、
会社の外にあるフットサルコートの、側のベンチで広げて食べました。

もうひとつ先のフットサルコートの奥で、
太極拳をやっているおじいちゃんがいて、
パスタをツルツル飲み込みながら、それを見て、
焦らないという事は、なんて難しいことなんだろう、と思った。
ひとつひとつの動きを、ていねいに、たいせつに、指の先のさきのほうで感じていく。

出る前に洗った髪が風に触れるのが気持ちよくて、
青い空の下で、
暖かい太陽の下で、
あの時世界はとても優しく何かを教えてくれている気がしたのです。

----

地面がうごいたとき、私は一階の自分の席にいて、
なんかゆらゆらするなぁと思って顔をあげて、
でもいつまでもゆらゆらしていて、
ゆらゆらが止まらなくて、
窓がガタガタいって、
窓を支える枠がミシミシいって、
隣の壁に乗っけていたものがバラバラ落ちてきて、
ああどうしようどうしようとどれだけ思ってもゆらゆらは止まなくて、
どこにも安全な場所なんて無いような気がした。

波にさらわれた船が陸に乗り上げたような、斜めった感覚の中で、
外に出よう、サッカー場に逃げよう、という声を聞きながら、
4階で会議をしていたMさんのPHSに連絡をした。
でない。
でない。
Nさんに連絡をしてみたら、
自分の隣のNさんの席でPHSが鳴った。
彼はいつもPHSを忘れてどこかへいってしまう。
ついさっきまで、今日はこんなに、こんなに、いつもどおりの一日だった。

何度もMさんにかけているうちに、
自分の指が震えてることに気付いて、
そう思ったらひざががくがくして、
怖かった、
ということに気がついた。

4桁の番号を押し続けて、ようやく電話が繋がって、
やっと、
だいじょうぶですか?と聞けたとき、
うん、と聞こえたとき、
自分がちゃんと垂直に立っていることを思い出した。

サッカー場に移動します、と伝えたら、
俺も降りるよ、と言われて、
地面がまだあることを思い出した。

でも何かが変わった。

----

ひとつしたの岡山出身の研究員の子が、
阪神大震災を思い出して泣いていた。
ハグしてあげたら、腕の中でとても震えていて、
自分も一緒に震えている気がした。

Nさんも、丸い背中をもっと丸めて、じっとしていた。
阪神の時は、広島も揺れたと思う。
何も言わないから、背中を撫でたら、こっちをむいて、ちょっと笑った。

サッカー場は緑で広くて、
でもうちの施設を使っている選手を入れたらいっぱいになった。
こんなにたくさん人がいたんだと、心の右端のほうで驚いて、
さっきまでいた建物を見た。
ちゃんとまだそこにあった。

----

またゆらゆらが来て、
サッカー場の四隅にある高い水銀灯が、ギーギーギーギー叫びだした。
みんなで慌ててサッカー場の真ん中へんに集まる。
揺れてる。
ぜんぶ揺れてる。

急に日が翳りだして寒くなってきたから、
みんなでおしくらまんじゅうしよう、とか言ってみたけれど、
なんだか地面が抜けちゃう気がした。

Mさんに電話を借りて、母のケータイにかけようとして、
自分の番号を入力していた。
母親の番号が思い出せなくて焦る。
なんばんだったっけ?

電話は通じなかった。
Mさんはご家族に連絡とれました?と聞いたら、
ダメだね。兄貴が仙台なんだけどね。
と言った。
でもしぶとい人だから、だいじょうぶだよ。

泣いてる人もいたけど、
みんなけっこう冷静だった。
冗談も言い合ったりして、笑い声も聞こえた。
寒い人にはコートを貸してあげたり、目配せして頷きあったり、
だれもひとりじゃなかった。

----

建物の安全状況の確認のために、施設の中に20人くらいで戻った。
7階ある建物を、各階3人くらいで見て周った。
立ち止まったら怖いから、
ずっと歩いた。
てくてく歩いた。
ドアをあけたら、開かなかった。
あっちにあったコピー機がこっちまで動いていた。

本棚と壁の間に、
無いはずの隙間があった。
なんだか分からない物が散らばって、
あるはずの床が見えなかった。

目の前の乱雑が、
なにかとても面白いもののように見えた。
こういう光景を、テレビで見たことがある。

----

4時過ぎに、建物の中に戻った。
着替えを取りにプールまで戻る子達について地下に降りたら、
廊下まで水がはみ出していた。
コーチの部屋に入ったらじゅうたんが水を噴いた。
プールの中に、クーラーボックスが2つ浮かんでいて、
水面が1メートルくらい沈んだり上がったりしていた。
時折おかしな具合でプールサイドに波が当たると、3メートルくらいの飛沫があがった。

----

メールなら通じるみたいだよ、とNさんに教えてもらって、
母に連絡をした。
暫くして返信があった。

父共OKOK。

単身赴任の父は、金曜の午後に家に帰る。

そういえば今日は金曜日だったのかもしれない。

Mさんもお兄さんと連絡が取れた。
無事だった。
元気だった。

だいじょうぶだった。

----

席に戻ったら、手を離した時のままのPC画面があった。

面白いように時計だけが冷静に時を刻む。

金曜日は土曜日になって、日曜日が来て、
その後日が昇れば月曜日になって、
そうしたら
予定通りミーティングがあるだろうし、
それに必要な資料は作らなければいけないのだろう。

あした車に轢かれれば人はやっぱり死ぬのだし、
亡くなった命は、昨日もそうだったように、もう戻ってこない。

何も変わらない毎日。
同じ大きさの一日。
秒針が命をかぞえていく。
波がさらっていった人たちは帰ってこない。

今日あの向こう側に沈んでいった太陽は、
また夜を越えて東の空にのぼるのだろう。
きっとあしたも、ごはんを食べなければおなかがすくのだろうし、
楽しければ笑って、つらければ泣くのだろう。

夢を探して、
幸せを見つけて、
新しい命がどこかで生まれて、
そうして進んでいく世界が、まだ今もここにある。

まだ今もここにある。

----

私の職場では、
誰も傷ひとつなく、
みんな無事でした。

家族も友達も、分かる範囲でみんな無事です。
生きています。

どうか一人でも多くの人が、
何かをなくさないでいられますように。
何かしらを失くさないでいられますように。

がんばろうにほん。