ONE VOICE

     * ONE LOVE + ONE LIFE + ONE VOICE *        笑っていれば、イイコトあるよ  

風を背に今、僕らが走り抜けたよ

Music: 夏影 Summer wind remix - Clean Tears

 

好きな季節がいくつもある。
夏はいつも
瞬間の鼓動を強く感じる。

追い詰められたとも少し違う、
けれど今しかないという焦燥は独特で
どこか自分が
幼くなる気がする。

失いたくない何かを纏った
この空気のにおいを知っている。

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今の職場は不思議なところで、
来年の今ごろにはもう解散してしまう。
一回きりの時限的なプロジェクトもので、繰り返される予定はない。
基本的には全てが初めてのことで、一発勝負。
ゴールに至るまでの過程も、定常的な作業は比較的少なく、全ては本番のための通過点で、
通り過ぎて行って終わる。
もう帰ってこない。
おしまいで、さよなら。

夏の間に大きな仕事が2つあった。
乗り切った、という感じだった。
上手くできたと思えることは何一つなかった。
そのまま1か月ほど零れ落ちたものを拾う作業をやって今に至る。
とりあえず頑張った。

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10月中には夏休みを取りなさいねと言われて、
どのタイミングで休んだらいいのか分からず、
まず振休を取って4連休を確保し、
飛行機などを調べてバリに行くことにした。

休みを取るのに、
休みが必要だった。

見通しを立てることに力尽きていたのかと思う。
こうしたらこうなる、という想像力は無限ではないんだと知った。
脳みそのキャパが結構切羽詰まっていたのかもしれない。

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漫画ハイキューの中で
ここしばらく気になっている描写がある。

音駒戦の最後のポイントで、
東京体育館が一瞬、夏合宿の体育館になる。
音もなく、
観客もない。

あの場面を考えるたびに涙があふれてくる。

なぜ。
どうしてなのだろう。
それをずっと考えている。

何かに共鳴して泣いている気がするのだけど
その感情がなんなのかが
よく分からない。

ただ感覚としては
胸の締め付けられるようなさみしい、にも
空を突き抜けるような果てのないよろこび、にも
似ている気がする。

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夏の2つの仕事のさなか
崩壊しそうなチームを助けるために
何とかせねばという場面があった。
いや、
別にお前これを何とかせよと言われたわけではないけど
自発的に何とかせねばと勝手に思い
何とかしよう思って立ち回った。

私の頑張りは何を変えたのか。

正直あれだけ頑張ったが、
たぶん何にもならなかった。
危惧していた崩壊は防いだが、別の方角で瓦解した。
頑張っていたことだけはみんなに伝わったと思うが、
何かの成功を導いたかというとそうでも無い。

あれを勝負所としたのは自分だ。
いける、と思ったから出ていった。
ただ見ていることもできたのかもしれないけど。
私の中では、あれには勝ち負けがあった。

達成感がない、という仕事は今までいくつかやったけど、
比較的本番に強い私は敗北感というものとはありがたいことにあまり縁がなかった。

いま
それをしこたま味わっている。

負けた。

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悔しいのは、
いやまずそもそも私は悔しい、と気付く時間もあんまりないまま過ぎ去ってしまったことが残念だけれど、
ほんとに悔しいのは、もうこれを出来ない、ということ。
次はもっとうまくできる、と思うのに、
学びを本当は探して、整理して、共有して、結束を固めて次に活かしたいのに、
次はもうない。

終わってしまった。

何という理不尽。
じゃあ私のこの感情はどうしたらよいのか。

職場でわたしに、
どうしてそんなに頑張れるのか
と聞いてくる子がいた。
何のために頑張っているのか
とも問われた気がする。
その時はよく分からずなんかそれっぽいことを言った。たぶん。

答えられない質問というのは気になるものだから
何となくそれ以降そのことを考えている。

敗北を感じているということは、勝利のイメージがあったんだろうか。
私はそれに向かって勤しみ、努力をしていたのか。
悔しいと思うこの心を解消できないことと
それは何か関係があるだろうか。

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いろいろ考えて思い出したのは、
中村悠一さんが梅原裕一郎くんと対談していた時の会話だった。

梅ちゃんはさぁ、この仕事は人生の中で一番?
で始まるその会話は、当時は、あぁなるほどなぁという感じで客観的に聞いていたのだけど
いま考えると私は仕事との関係性がまさに中村さんなんじゃないかと思う。

オレは一番好きなの
でも一番じゃないほうがいいよ
いちばん好きなことが仕事のとき
仕事で受けるストレスは仕事でしか解消できない
(意訳)

私は比較的残業の多い人で
終わらないっていうより、残りたいから残るパターンが多い。
もうちょっとやって気分良く帰りたいなって。
中村さんの言葉を踏まえて我が身を振り返るとき、
私の残業はただのストレス解消なんじゃないかと気付く。
仕事で何かしらが上手く行かなというか、
なんとなくちゃんと整ってなかったり雑だったり先行き不透明なとき、
私はなんか嫌だなぁと思う。不安と言ってもいい。
それは、映画に行ったりカラオケしたりカフェに行ったり、動画見たり物を書いたり音楽聴いたり料理したり掃除したり
思いつく限りの全ての関係のないことをやって自分の気分を良くしようとしても
結局仕事でそれが解消されない限りずっと付きまとう。
散らばったポジティブなエネルギーをかき集めて元気になって、違う角度から物事を見て新しい気持ちで取り組めることもあるけど
それはストレスの解消ではなくただの気分転換であって
根源が解決されないと私はイヤなんだ。

それはつまり
私は仕事がとても好きだってことじゃないだろうか。
人生で一番ってことだ。
起きている時間のおおよそを費やしているものを
私は人生で一番に好きなのだ。

こんなに単純で幸せなことってあるかしら。

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この敗北感を
悔しさを
これから先、終わりの決まっている、たった一度の、繰り返しのない仕事で
昇華することが出来るかどうかが
いま私にかかっている。

なぜなら仕事が好きな私は、
この悔しさも仕事でなら発散できるはずなんだ。

もう一度はない。
それは悲しい。寂しい。だからきっと悔しい。
けれど続きはある。
これから先の一つ一つを丁寧に、
最大限に、
今できることの全てで進んでいくしかない。

音駒戦のあの見開きは、
もう二度と戻ってこないと思っていた夏のちいさなひとつの瞬間を
彼らがもう一度生きている時間でもある。
淋しいけど、それだけじゃなく喜びもある。

やり直しはできないけど。
次だってないけど。
これからがある。
続きが、あるから。

そこで出会う時間が
きっと思いもかけない形でリベンジのチャンスをくれるだろう。
未来とはすばらしい。
想像ができないということはこんなにも希望を与える。
今の私にできることは
ここで終わらないこと。

虎視眈々と
一歩一歩。

踏み出せば
そこが前だ。